
皆様こんにちは。
奈良市富雄の行政書士 松岡です。
歯医者さんで作ってもらう入れ歯や被せ物、詰め物。
こうした歯科治療に欠かせないものを、
実際に製作している「歯科技工士」という仕事をご存じでしょうか。
歯科医師に比べると、患者さんが直接接する機会は
少ないかもしれません。
しかし、歯科技工士がいなければ、
入れ歯や被せ物などを完成させることはできません。
その歯科技工士が今、深刻な人手不足と高齢化に直面しています。
歯科技工士を目指す人が大きく減っている
全国歯科技工士教育協議会の調べでは、
歯科技工士養成機関への入学者数は、
1993年の3,155人から2023年には718人まで減少しています。
30年間で約4分の1以下です。
学校数も72校から46校へ減少しています。
つまり、歯科技工士として働く人が減っているだけではありません。
そもそも新しく歯科技工士を目指す若者そのものが
大きく減っているということです。
一方で、現役の歯科技工士は高齢化しています。
平均年齢は約49歳で、働いている人の半数近くが50歳以上とされ、
若い世代の不足が目立っています。
このまま若い人材が入ってこなければ、
現在働いている技工士が引退することで、
さらに人手不足が進む可能性があります。
なぜ歯科技工士が減っているのか
背景には、いくつかの要因があります。
一つは、長時間労働と収入の問題です。
歯科技工は細かな作業が多く、
納期に合わせて製作する必要があります。
その一方で、歯科技工にかかる費用は、
歯科医療制度の中で大きく制約されています。
材料費や光熱費などが上昇しても、
技工所が自由に価格を決められるわけではありません。
そのため、
「仕事は忙しいのに利益が残りにくい」
という問題につながりやすくなっています。
さらに、最近ではCAD/CAMなどのデジタル技術や
3Dプリンターの導入も進んでいます。
技術革新によって作業を効率化できる一方、
新しい設備を導入するためには相応の資金が必要です。
歯科技工士は「会社員」だけではない
ここで少し興味深いのが、歯科技工士の働き方です。
歯科技工士というと、技工所で働く会社員をイメージする人が多いかもしれません。
しかし、実際にはいくつかの働き方があります。
1.歯科技工所に勤務する
最も一般的な働き方の一つです。
技工所に勤務し、入れ歯や被せ物などの製作を担当します。
規模の大きな技工所では、工程ごとに分業されている場合もあります。
会社員として働けば、給与が安定し、
社会保険や福利厚生を受けられるというメリットがあります。
また、個人では購入が難しいCAD/CAMなどの設備を使いながら
技術を身につけられることもあります。
2.独立して個人の技工所を開業する
歯科技工士には、自分で技工所を開業するという道もあります。
歯科医院から仕事を受け、製作して納品するという形です。
以前は、経験を積んだ技工士が自宅などを利用して
小規模な「個人ラボ」を開業するケースもありました。
独立すれば、自分の技術や営業力次第で仕事を広げることができます。
一方で、技術だけでは経営できません。
歯科医院への営業、受注管理、納期管理、材料の仕入れ、
設備投資、経理など、経営者としての仕事も必要になります。
特に現在は、デジタル化への対応も重要になっています。
3.歯科医院に直接勤務する「院内技工士」
もう一つが、歯科技工所ではなく、歯科医院に直接雇用される働き方です。
院内技工士であれば、歯科医師と近い距離で仕事をすることができます。
患者さんの口腔内の状態について歯科医師から
直接説明を受けながら製作するため、
技工所とは違ったやりがいを感じる人もいます。
また、歯科医院の診療時間に合わせた勤務となるため、
技工所とは異なる働き方ができる可能性があります。
「技術職」から「デジタル技術職」へ
歯科技工の世界も、昔ながらの手作業だけではありません。
現在はCAD/CAMなどを利用して、コンピューター上で
歯の形状を設計する技術が広がっています。
さらに3Dプリンターなどの技術も活用されるようになっています。
これは人手不足への対応という意味でも重要です。
すべてを人の手で作るのではなく、
デジタル技術によって作業を効率化することで、
一人の技工士が対応できる仕事量を増やせる可能性があります。
ただし、機械を導入すれば人手不足がすべて解決するわけではありません。
機械を操作する知識や技術も必要ですし、設備投資には資金が必要です。
「人を増やす」だけではなく、
「少ない人数で効率的に仕事ができる環境をつくる」ことも、
これからの歯科技工所には重要になってきそうです。
歯科技工士不足は、私たちの生活にも関係する
歯科技工士の問題は、業界の中だけの話ではありません。
技工士が不足すれば、入れ歯や被せ物などの製作に
時間がかかる可能性があります。
特に高齢者が増える中で、入れ歯を必要とする人は
少なくありません。
「歯科医院はあるのに、製作する人が足りない」
という状況になれば、将来的には歯科医療そのものにも
影響する可能性があります。
歯科技工士は、患者さんからは見えにくいところで
歯科医療を支えている仕事です。
だからこそ、今後は若い人がこの仕事を選びやすい環境をつくること、
そして技術や設備への投資ができる技工所を増やしていくことが
重要になるのではないでしょうか。