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日別アーカイブ: 2026年9月25日

便利すぎる時代の消費者心理

皆様こんにちは。

奈良市富雄の行政書士 松岡です。

 

スマートフォンのカメラ性能は、ここ数年で大きく進化しました。

暗い場所でも明るく撮れる。
逆光でも顔がきれいに写る。
手ブレも自動で補正してくれる。

以前なら撮影技術が必要だったことも、

今ではスマートフォンが自動的に処理してくれます。

ところが今、こうした「きれいに撮れる」こととは

少し違う価値を持つカメラが、若い世代を中心に人気を集めています。

その代表格の一つが、コダックブランドのコンパクトデジタルカメラです。

2025年、コダックのコンデジが年間1位に

2025年のBCN総研のランキングでは、

コンパクトデジタルカメラのシリーズ別実売台数で、

コダックの製品が年間1位となりました。

コダックがこのランキングで年間首位になるのは初めてです。

さらに、トップ10にはコダックの製品が複数ランクインしました。

2025年は、コンパクトデジタルカメラそのものの需要も拡大しました。

BCN総研のデータを紹介した報道によると、

2025年の国内カメラ市場では、

レンズ一体型カメラの販売台数が大きく伸び、

その中でコダック製品が24%を占めました。

スマートフォンで簡単に写真が撮れる時代に、

なぜ今さらコンパクトデジタルカメラなのでしょうか。

 

「きれいすぎる写真」から少し離れたい

コダックのコンパクトデジタルカメラは、

最新のスマートフォンや高性能なミラーレスカメラと比べれば、

決して高性能なカメラではありません。

価格も比較的手頃で、本格的なカメラに比べれば手を出しやすい商品です。

ここが一つのポイントです。

最新のスマートフォンなら、撮影した瞬間に画像処理が行われ、

明るさや色、ノイズなどが自動的に調整されます。

一方、コンパクトデジタルカメラでは、少し暗かったり、

ブレたり、光が白くにじんだりすることがあります。

普通なら「失敗」と考えられるような写真です。

ところが、その不完全さが「味」として受け入れられています。

 

「エモい」は、完璧ではないこと

最近よく使われる「エモい」という言葉。

写真の世界では、少し色あせたような色合いや、ブレ、粒子感、光のにじみなど、

昔の写真を思わせる雰囲気を指して使われることがあります。

実際、コダックのコンデジについても、

家電・カメラ系メディアでは「平成レトロ」や「エモい写真」が

人気の理由として紹介されています。

興味深いのは、ここで評価されているのが、

必ずしも「高画質」ではないことです。

むしろ、

・少しブレている
・暗いところではノイズが出る
・光がにじむ
・思った通りに撮れない

といった部分が、写真の個性として楽しめる。

「画質が良いこと」よりも、

「そのときにしか撮れないこと」

に価値を感じる人が増えているとも考えられます。

 

スマホではなく、カメラで撮ること自体が楽しい

もう一つ面白いのが、「写真」だけではなく「撮影する行為」

そのものが楽しみになっていることです。

スマートフォンなら、画面をタップすれば撮影できます。

一方、カメラを持ち歩き、取り出して、シャッターボタンを押す。

この少し面倒な動作が、逆に新鮮に感じられる人もいます。

実際、家電量販店のカメラ担当者への取材でも、

コダックのコンデジについて、「エモい」写真だけでなく、

軽さや操作の簡単さ、スマートフォンとは違う撮影感覚が

支持されていると紹介されています。

つまり、単純に「画質の悪いカメラが売れている」という話ではありません。

スマートフォンにはない体験そのものが、商品の価値になっている。

ここが重要なのではないでしょうか。

 

実は「偶然」だけではなかったコダックのコンデジ人気

コダックのコンパクトデジタルカメラが日本で広がった背景には、

もう一つ重要な事情があります。

それは、低価格のコンパクトデジタルカメラ市場に「空白」が生まれていたことです。

スマートフォンのカメラ性能が向上すると、

キヤノンやソニーなどの国内メーカーは、

コンパクトデジタルカメラよりも高性能なミラーレスカメラなどに

力を入れるようになりました。

その結果、2万円~3万円程度で購入できる手頃なコンデジの選択肢が

少なくなっていきました。

そこに目をつけたのが、

コダックブランドのデジタルカメラを手がける米JKイメージングです。

JKイメージングはコダックとのライセンス契約に基づき、

KODAKブランドのデジタルカメラを製造・販売しています。

日本市場では、こうした低価格帯の商品を展開することで、

大手メーカーが縮小していった市場の空白を埋めていきました。

つまり、最初から「若者向けのエモいカメラ」を作ったというより、

手頃な価格で買えるコンデジという、残された市場を狙ったことが出発点だった

と考えられます。

そして、そこに後から「平成レトロ」や「エモい写真」を求める

若い世代の需要が重なりました。

ここが今回の現象の面白いところです。

企業が用意した商品と、消費者が見つけた新しい価値が、

後から結びついたという感じです。

「低価格」が、若者にとって別の価値になった

ここまでを見ると、コダックのコンデジが人気になった理由は、

単純に「昔のカメラだから」ということではなさそうです。

もともとは、2万円~3万円程度で購入できる

手頃なコンデジという市場に向けて販売されていた商品。

そこに、

「スマートフォンとは違う写真を撮りたい」
「少しレトロな写真を残したい」
「カメラを持って出かけたい」

という若い世代の需要が重なりました。

これは、現在の商品やサービスを考えるうえでも興味深い現象です。

 

「高性能」だけが価値ではない

これまでのデジタル製品は、基本的に「より高性能に」

という方向で進化してきました。

カメラなら、

より高画質に。
より速くピントが合うように。
暗い場所でもきれいに。
手ブレを少なく。

こうした進化は、もちろん消費者にとって大きなメリットです。

一方で、性能が向上したことで、写真を撮る人自身が工夫する場面は

少なくなりました。

スマートフォンを向ければ、明るさや色、ピントなどを自動的に

調整してくれる。

「失敗しない」という意味では、とても便利です。

だからこそ、その反対にある「少し失敗するかもしれない」

という感覚が、新鮮に感じられるのかもしれません。

完璧な写真ではなく、そのときにしか撮れない写真。

きれいに仕上げられた写真ではなく、偶然できた色や光。

そこに「思い出らしさ」を感じる人がいるということです。

 

「不便だから売れる」という単純な話ではない

ただし、ここで「不便なものが売れる時代になった」と考えてしまうと、

少し違うように思います。

消費者が求めているのは、不便そのものではなく、

「自分で撮っている感覚」や「偶然性」、「他の人とは少し違う写真」といった、

スマートフォンでは得にくい体験ではないでしょうか。

便利さを否定しているわけではなく、

便利なものが十分に普及したからこそ、便利さ以外の価値にも目が向くようになった。

そう考えると、このコンデジ人気も理解しやすくなります。

 

ビジネスヒントがある?

今回のコダックのコンデジ人気は、

企業の商品やサービスを考えるうえでも興味深い事例です。

「もっと高性能にする」
「もっと安くする」
「もっと便利にする」

という競争を続けるだけでは、資本力のある企業との

競争になってくると思います。

一方で、自社の商品を別の角度から見てみると、

これまで気づかなかった価値が見つかることがあります。

例えば、

「昔ながらの方法だからこそ安心できる」

「少し手間がかかるからこそ、人とのつながりが生まれる」

「大量生産ではできないからこそ、一つ一つ丁寧に対応できる」

といったものです。

商品そのものを大きく変えなくても、消費者の価値観が変われば、

商品の見え方も変わる。

今回のコンデジ人気は、そんなことを考えさせてくれる現象です。

「もっと便利に、もっと高性能に」。

それだけではなく、

「今ある商品の、別の価値は何だろうか」

と考えてみる。

新しい商品やサービスを生み出すことだけが、

ビジネスの成長ではないのかもしれません。